Hirofumi Yoshida - 吉田裕史

吉田裕史:指揮者
東京音楽大学指揮科及び同研究科修了。ドイツ・イタリアで研鑽を積み、2007年ローマ歌劇場カラカラ浴場野外公演を指揮、2010年1月よりマントヴァ歌劇場音楽監督に就任。
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2008年12月17日 23:58
マスカーニ
ピエトロ・マスカーニ(Pietro Mascagni, 1863年12月7日、リヴォルノ生まれ)
ヴェルディが数々の傑作を生み出し、イタリア・オペラの"ブランド"を世界中が改めて認めることになった後、19世紀から20世紀初頭にかけて、イタリア・オペラの新しい流れである "ヴェリズモ・オペラ" (verismo opera)の時代がやってきます。写実主義とも訳される "Verismo" は英語のrealismにあたり、この時代の文学作品などにも適用される言葉ですが、オペラの世界においても "一般庶民の現実的な日常生活" から題材をとり、その筋書きをリアル&ストレートに描写するという手法が大衆の心を掴むようになります。それは、どんどん高尚化し長大化していた一方のオペラに対するアンチテーゼでもあったようです。
マスカーニ作曲の「カヴァレリア・ルスティカーナ」(初演1890年)は、まさにこうした傾向を示す作品で、レオンカヴァッロ作曲のオペラ「道化師」(同1892年)とならび、ヴェリズモ・オペラを代表する作品です。「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、"田舎の騎士道"といった意味ですが、シチリア島を舞台に男女の三角関係を、まるでマフィア映画のように劇的に描いたこのオペラは、1890年ローマで初演されるや否や爆発的に流行し、オペラ史上に残る記録的な大ヒットとなりました。
あらすじ: シチリア島のある村。復活祭の朝。トゥリッドゥは、かつて美しい女ローラの恋人であったが、ローラは彼の兵役中に馬車屋のアルフィオと結婚してしまった。除隊後、帰郷したトゥリッドゥは、一度はローラを忘れるために、村娘のサントゥッツァと婚約までしたが、結局は留守がちのアルフィオの目を盗んでローラと逢引を重ねる仲になってしまう。その事を知ったアルフィオは激怒し、復讐を誓う。
(美しく、情熱的な間奏曲)
教会のミサが終わる。アルフィオはトゥリッドゥの勧めた杯を断り、2人は決闘を申し合わせ、アルフィオはいったん去る。トゥリッドゥは酒に酔ったふりをしながら、母に「もし自分が死んだらサントゥッツァを頼みます。」と歌い、出て行く。決闘。トゥリッドゥの死で幕。
本日は、このオペラから"間奏曲"(Intermezzo)、そして合唱とメッゾ・ソプラノによって感動的に歌いあげられるシーン、"歌いましょう!"(Inneggiamo!)をお届けいたします。
① マスカーニはミラノでポンキエッリらに師事して作曲を勉強しました。ちなみにその時の学友で、貧乏時代から一緒に、しかも同じ部屋で共同生活までしたのが、同じく後の大オペラ作曲家となるジャコモ・プッチーニでした!
② 「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、1889年にイタリアの音楽出版社ソンツォーニョ社主催の1幕もの短編オペラ作曲コンクールにおいて一等入選を果たし、その後の爆発的ヒットにつながります。(ちなみにプッチーニは、その前の1883年に同じコンクールに応募しましたが、あえなく落選しています。しかし、その後ソンツォーニョ社のライバルである音楽出版社リコルディ社にその才能を見いだされ、ヴェルディに次ぐ大オペラ作曲家への道を歩むことになりました。)
③ このオペラの初演がどれほど成功を収めたかというと、、終演後のマスカーニに対するカーテンコールが60回、ソンツォーニョ社と15000リラ(当時、10年分の年収)で独占契約を結び、初演後3年間のうちにイタリアの66都市、イタリア国外の62都市で上演という記録が残っています。
④ マスカーニは日本を題材にしたオペラを書いています。当時、ヨーロッパで流行していた"ジャポニズム"の影響も受けて書かれた「イリス」(あやめ)というタイトルのこの作品、舞台はもちろん日本という設定なのですが、登場人物の名前がなんと"大阪さん"や"京都"さんなのです(笑) この作品、イタリアでは今でも、数年に一度の割合で演奏されているようです。
⑤ 映画「ゴッドファーザー・パート3」では、パレルモのマッシモ歌劇場(撮影には別の劇場が使わていますが)を舞台にして、「カヴァレリア・ルスティカーナ」が上演されるシーンが出てきます。映画のストーリーとこのオペラの筋書きが暗喩的に組み合わされていて、フランシス・コッポラ監督(シチリア系アメリカ移民)の想いや意図が感じられます。ぜひ、オペラを全編見た後で映画をご覧になってみてください。
⑥ 私は昨年、カラカラ浴場野外劇場でレオンカヴァッロ作曲のオペラ「道化師」を指揮してデビューしました。「カヴァレリア・ルスティカーナ」や「トスカ」(ヴェリズモ的オペラのひとつ)の世界初演を行った同歌劇場では、特にヴェリズモ・オペラの分野において特筆すべき伝統が脈々と流れています。主役(カニオ)を歌ったニコラ・マルティヌッチは70歳を過ぎた今も美しいベルカントを聞かせてくれる世界最高のテノールですが、その溢れんばかりのオペラに対する情熱と想像を絶する経験値の高さから、立ち稽古(演出家によるリハーサル)中に"ヴェリズモ・オペラはかくあるべき!"と情熱的に語り始め、練習が中断(時には何十分も(笑))してしまうことがしばしばありました。しかし、美しい歌声は言うまでもなく、舞台上での彼の迫真の演技は大変感動的で、アリア"衣装をつけろ!"を歌った後に(野外劇場であったにも拘わらず)、聴衆のすすり泣く声が聞こえてきました。やはり、オペラは最高です!
Hirofumi Yoshida


