海外メディアによる特別ロングインタビュー記事が公開されました。

"HIROFUMI YOSHIDA: to seek the truth in every note and to serve music"
――「吉田裕史:すべての音符に真実を求め、音楽に仕える」


このたび、海外メディア Huxley Media(英語) の取材を受け、音楽への向き合い方や指揮者としての歩みについてお話ししました。

オペラから交響曲までの活動、そして若い世代への思いを、インタビュー映像の中で率直に語っています。
ご興味のある方はぜひご覧ください。

(記事・映像:Huxley Media / 英語)
▶︎ HIROFUMI YOSHIDA: to seek the truth in every note and to serve music

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(和訳)プロフィール吉田裕史──音符の一つひとつに真実を求め、音楽に仕える

プロフィール
• 名前:吉田 裕史
• 生年:1968年
• 出身地:日本・船橋市
• 職業:指揮者

吉田裕史は、精緻なバトン・テクニックと繊細な耳を併せ持つ指揮者であり、オペラとシンフォニック・レパートリー双方で国際的に活躍している日本人マエストロである。
これまで20年以上にわたりヨーロッパでキャリアを築き、ローマ、ジェノヴァ、ボローニャをはじめイタリア主要歌劇場やトッレ・デル・ラーゴのプッチーニ・フェスティヴァルで数々のタイトルを指揮してきた。

現在はイタリア・モデナのルチアーノ・パヴァロッティ歌劇場フィルハーモニーのMusic Director(音楽監督)を務めるとともに、ウクライナ・オデーサ国立オペラ・バレエ劇場のPrincipal Guest Conductor(首席客演指揮者)としても招聘されている。

舞台での実践と同等に教育にも重きを置き、若い世代への知識と経験の継承を芸術活動の不可欠な一部と考えている。現在はオデーサで開催される第1回国際声楽コンクールRecitar Cantandoの審査員も務めている。

(和訳)インタビュー音楽との出会いスヴィトラーナ・パヴリアンチナ(S.P.):
あなたの音楽的な耳や指揮者としての直感を形づくった人・場所・偶然の出会いについて教えてください。

吉田裕史(H.Y.):
決定的だったのは若い頃にイタリアでオペラに深く触れたことです。イタリアではオペラは劇場の舞台上だけにあるものではなく、人々の日常のイントネーションや街の空気そのものに息づいています。
オペラは芸術ジャンルを超え、文化として日常に根を下ろしています。
ボローニャやモデナ、ローマの劇場で偉大なマエストロたちとともに仕事をし、劇場が受け継いできた伝統に触れた経験は、単なるテクニックを超えて、音楽への畏敬の念を教えてくれました。
日本は私に規律を、ヨーロッパは表現の自由を授けてくれました。私は今も、この二つのエネルギーが交わるところでタクトを振っている感覚があります。

指揮を"天職"と悟った瞬間S.P.:
音楽が単なる職業ではなく、天職だと感じた瞬間を覚えていますか?

H.Y.:
はい。学生時代、初めてリハーサルでポディウム(指揮台)に立った時です。
ひと振りのジェスチャーでオーケストラが呼吸し、音が立ち上がる瞬間を体感し、これこそが自分の道であり、世界と対話するための声だと確信しました。

オペラ指揮者に求められる資質S.P.:
オペラ指揮者として、大編成のアンサンブルや感情の奔流を伴うスコアを扱う上で、どのような内面的規律が必要だと思いますか?

H.Y.:
指揮者は豊かな感情の世界を内に秘めつつ、常に冷静で正確でなければなりません。
オペラは声、オーケストラ、舞台美術、ドラマトゥルギー、そして観客の呼吸が複合的に絡み合う総合芸術です。
出演者それぞれの空間や個性を尊重しつつ、音楽全体のアーキテクチャを保つ責任を担う必要があります。そのためには謙虚さ、感受性、そして絶対的な献身が求められます。

技術と感情のアーキテクチャS.P.:
テクニカルな完成度と音楽のエモーショナルな真実の境目はどこにあると考えますか?

H.Y.:
技術は基礎であり、音楽を明瞭に語るための"言語"です。しかし、感情の真の表出こそがその言語を使う理由です。
いかに完璧なパッセージでも聴衆の心を動かさなければ空虚であり、逆に感情だけでは音楽的なフォルムが崩れてしまいます。
私の役割はこの二つを結びつけ、感情が自然に呼吸できるアーキテクチャを築くことだと考えています。

失敗が教えたことS.P.:
音楽や人生において最も厳しくも賢明な師となった"失敗"は何でしょうか。

H.Y.:
失敗は"耳を傾ける事"の重要性を教えてくれました。
才能や知識よりも大切なのはself-awareness(自己認識)――自らの声を聴き、自分の身体と精神の限界を知ることです。「無知の知」とも表現できます。
柔軟性、好奇心、心を開く姿勢、そして忍耐がなければ成長は望めません。舞台は焦りを許しませんが、誠実に歩み続ける人には必ず応えてくれます。

声は"魂の指紋"S.P.:
声において最初に惹きつけられるのは、テクニックでしょうか、解釈でしょうか、それとも音色でしょうか。

H.Y.:
どれも重要ですが、まず心を打つのはtimbre(音色)です。
音色は魂のフィンガープリントのようなもので、声だけでなくその人自身が響いています。
テクニックは学ぶことができ、解釈は構築できます。しかし音色は極めて個人的で、ほとんどスピリチュアルな領域です。誠実な音色には真似のできない真実が宿ります。

感情表現と抑制S.P.:
舞台上の感情表現において、歌手には抑制が必要だと思われますか。

H.Y.:
抑制は不可欠です。形を欠いた感情は混乱を招き、時に人工的に響いてしまいます。
真の妙技はバランスにあります。内面的なコントロールを通して感情をフォルムに宿すことで、かえってエモーショナルな力が増すのです。
オペラで最も人の心を震わせる瞬間は、しばしば最も静寂な場面にあります。

真の教育とはS.P.:
"内なる文化"なしに本当の学校は成り立たないと思いますか。

H.Y.:
その通りです。真の学校は単にテクニックを教える場ではなく、価値観、好奇心、問いを発する力や関連性を見出す力を育む場所です。
歴史、哲学、詩、芸術のスピリットと無縁では、表層しか伝えられません。
教育の核心は、世界への好奇心と独自に考える力を目覚めさせることにあり、その深みは教師自身が体験し伝えることでしか培われません。

若手音楽家へのアドバイスS.P.:
若い音楽家が最初に直面する壁は何だと思いますか。

H.Y.:
最大の課題はlack of self-confidence(自己への信頼の欠如)です。
無数の声が飛び交う世界で自らの声を見出すことは容易ではありません。
私は若者たちがリスクを恐れず実験し、失敗しながら自らのテンポとリズムを獲得できる場を与えたいと考えています。
ときには音そのものではなく、その背後のsilence(沈黙)に耳を澄ませることも必要です。
本当の出発点は完璧なテクニックではなく、自らの声を信じる静かな確信であり、それこそが変革をもたらします。

舞台に立つために必要な資質S.P.:
若い歌手が舞台で自らの居場所を築くために不可欠な資質は何でしょうか。

H.Y.:
才能に加え、今この瞬間に"present(そこに存在する)"ことのできるプレゼンス、そしてself-awareness(自己認識)と謙虚さです。
アーティストは自らの声だけでなく、身体・呼吸・感情を熟知していなければなりません。
聴く力は歌う力と同じほどに重要です。好奇心と忍耐を持ち続けることも欠かせません。
音楽のキャリアはスプリントではなくマラソンです。誠実に成長を重ねる者は、必ず自らの居場所を見つけるでしょう。

(記事・映像:Huxley Media / 英語)
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