マエストロとの思い出 ユーリ・テミルカーノフ

マエストロとの思い出 ユーリ・テミルカーノフ

ロシアの世界的指揮者、ユーリ・テミルカーノフさん死去...84歳
タス通信は2日、ロシアの世界的指揮者で名門サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団の音楽監督を務めるユーリ・テミルカーノフさんが同日、死去したと報じた。84歳だった。

2023年11月2日、薫陶を受けた恩師が他界しました。

三十代の頃、まだローマ歌劇場で研鑽を積んでいた時代に、定期的にサンタ・チェチーリア管弦楽団を指揮していたマエストロ・テミルカーノフのリハーサルに足繁く通っていました。
ある日、彼の音楽作りに感銘を受け、「あなたのアシスタントにしてください!」とお願いしたところ、マエストロは低いしゃがれ声でたった一言「Yes...」と。

このやりとりを横で聞いていたマエストロのマネージャーから「今、彼が音楽監督を務めているアメリカのボルティモア交響楽団に連絡しておきます。」と言われ、はたして本当にその数日後にはオーケストラの事務局からも連絡をいただき、私は胸に大きな期待を膨らませ、すぐにローマからボルティモアへ飛びました。

ボルティモアに着くと直ぐその日のうちに、オーケストラ事務局長のミリアムさんが「今から、明日のリハーサルで使うスコアを届けにマエストロのコンド(マンション)に行くけれどHiroも一緒に来る?」と声をかけてくれた。
一緒に行ってみたら、なんとそこは湖のほとりに立つ最高級マンションのペントハウス(最上階)で、あまりの豪華さに茫然と驚いていると、その姿を見てミリアムさんが「いつの日か、あなたも市民やオーケストラから愛され、リスペクトを受ける立派な指揮者になってね。」とアメリカ流に励ましてくれた事は今でも忘れられません。

マエストロのおかげでオーケストラからとても暖かく迎えてもらっただけでなく、オーケストラの理事長(ゴールドマンサックス上級副社長)とも親しくさせていただき、オーケストラの社会的存在意義についての熱い想いを幾度となく聞かせていただいた。
「このオーケストラはこの街の誇りで、私の宝物なんだ。この街で生まれ育った私にとって、このオーケストラはまるで私の子供も同然。全財産を投げ打ってもこのオーケストラを世界一にするよ!」

ローマや東京からボルティモアまでは、飛行機で乗り換えも入れて20時間以上。
今思えばかなり遠いですが、当時は機内でスコアを読みながら、新しい音楽体験と音楽作りの秘密に出会える喜びにワクワクし胸をときめかしていた事を、つい昨日のことのように思い出します。

マエストロから許可を得て、特別にいただいたチャイコフスキーやストラヴィンスキーの "マエストロのボーイング(弓使い)入り" パート譜は今でも一生の宝物です。
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素晴らしい機会をいただき、本当にありがとうございました。

安らかにお休み下さい。

#テミルカーノフ

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