《Le Villi》を語る Vol.3

― 妖精《ヴィッリ》の伝承からオペラへ:古い森の影に潜むもの ―
マエストロ:
今日はいよいよ《Le Villi》の核心に迫る回ですね。
そもそも、この「ヴィッリ」という存在、どこからやってきたんでしょう?
教授:
ヴィッリ(Villi)は、中央ヨーロッパの伝承に登場する復讐の精霊です。
特にスラヴ・ドイツ・アルザス地方に見られる民間信仰が源泉で、バルカン半島からポーランド、そしてオーストリアの森に至るまで、その伝説が残されています。
マエストロ: 《ジゼル》のウィリ(Wili)とも近いですね?
教授:
まさに。
《ジゼル》では恋に裏切られて死んだ娘たちが夜な夜な男たちを踊り殺す精霊として描かれますね。
プッチーニの《Le Villi》は、まさにその系譜に連なるオペラ版の"復讐の舞踏"なんです。
地理の背景:森とヴィッリの棲む場所
舞台はアルプスの麓、北イタリアのある村。
ここはドイツ・オーストリアとの文化が交錯する土地で、スラヴ的な影響も受けている。
教授: この村はあくまで象徴であり、ヨーロッパの"辺境=魔の森"という伝統的空間表象が生きているのです。
マエストロ:
"ヴィッリに取り憑かれたように踊る"という描写には、どこか儀式的な美しさがあります。
人間を超えた力の存在を、音楽でどう表すか......いつも悩みます。
教授:
それはまさに演出と指揮の交点ですね。
ヴィッリの存在は、人間の愛と裏切り、死と復讐を超越した"自然の掟"とも言えます。
だから、プッチーニの音楽もどこか呪文のような反復や、不安定な和声を使って非人間的な気配を描いています。
言葉の魔術:ヴィッリが喋らない理由
このオペラでヴィッリは一言も語りません。
舞台には登場せず、踊りと合唱と音楽の中でのみ「存在」が示される。
教授: ヴィッリは言葉を超えた存在であり、その沈黙こそが、人間の罪を映し出す鏡なのです。
マエストロ: だからこそ、ヴィッリが踊りながらロベルトを"引き裂く"場面は、台詞なしでも恐ろしい。
教授: 音楽と身体表現のみで死に至る。まるで古代の神話劇のようです。
#妖精ヴィッリ
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(花冠の女性精霊)