《Le Villi》を語る Vol.2

― 地名に託された運命 ― 「マゴンツァ」ってどこ?
マエストロ(私):台本を読んでいてふと気になったんですが、ロベルトが旅立つ先として登場する「マゴンツァ」って、いったいどこなんでしょう?
教授:「マゴンツァ」はイタリア語での呼称で、ドイツのマインツ(Mainz)を指します。
ドイツ西部、ライン川沿いの歴史ある都市ですね。
マエストロ:なるほど、ドイツだったんですね。
イタリアの片田舎から、遥か北へと向かう旅という設定が、ロベルトの"不在"を重くしていますね。
なぜマインツ? その地理的・象徴的意味
教授:当時のマインツは、音楽的にも政治的にも重要な都市でした。
カール大帝時代から続く大司教座があり、神聖ローマ帝国の冠を支えた場所でもあります。
マエストロ:そんな"荘厳で格式高い"都市へ、庶民の若者ロベルトが旅立つ...。
この距離感、社会的ギャップが、彼の運命を予感させているような。
教授:加えて、「マインツ」にはキリスト教文化とゲルマン神話の影響が交錯していて、まさに"死者と精霊の町"というイメージすらあるんですよ。
マエストロ:つまり、ただの物理的な移動ではなく、霊界との接点を象徴する旅路でもあるのですね。
台本の地理的リアリズムと幻想
マエストロ:アンナとロベルトが住んでいる村は明示されていませんが、北イタリアの山間部をイメージさせますね。
教授:そう。フォンターナの台本には、明確な地名は出ませんが、森や山、修道士の存在など、アルプス文化圏の村がモデルだと考えられます。
マエストロ:そこから"マインツ"へ。しかもロベルトは手紙も寄こさず帰ってこない。この距離と音信不通が、物語の悲劇性をより高めていますね。
教授:つまり、《Le Villi》の地理設定は、空間的距離と感情的断絶をシンクロさせるための装置なのです。
まとめ:地名が語るドラマの構造
"愛する人が、遠くへ旅立ち、帰らぬ人となる"
この古典的モチーフが、《Le Villi》では「マゴンツァ=マインツ」という具体的地名を持つことで、より強いリアリティと象徴性を獲得しています。
その旅は、"裏切りの旅"であると同時に、"死者の世界へと繋がる道"でもある。
地理的移動を通じて、恋人の不在→死→復讐と贖罪へと続く感情のアーチが、自然と立ち上がってくるのです。