《Le Villi》を語る Vol.5

― "貧しく出発し、富んで戻る" ― 言葉と音楽に仕込まれた不穏な兆し ―
マエストロ(私):「stasera partirà povero, tornerà ricco」という台詞。
華やかで希望に満ちた未来を示すかのような言葉ですが、実は非常に微妙な構文で構成されています。
教授:もともとの台本では「stasera partirà povero, e tornerà ricco」と書かれていたのですが、プッチーニは「e(そして)」を取り除くよう指示した形跡があります。
マエストロ:つまり「出発」と「帰還」が地続きではなくなった。
二つの出来事が直線的に結ばれていない。まるで「戻ってこないかもしれない」という前兆のようです。
教授:観客は無意識にその"間"を読み取ります。
言葉の小さな"綻び"が、未来の不安を潜在的に植え付けているのです。
マエストロ:しかも、プッチーニの音楽がそれをさらに強調しています。
旋律は上昇的でなく、どこか中断されたようなライン。音楽が「確信」を拒んでいるんです。
教授:言葉の表層では希望を語りながら、その構文と音楽の層では"不安"が支配する。
非常に高度な構造ですね。
マエストロ:"出発と帰還"という希望のフレーズが、やがて"離別と裏切り"という暗い実態へと変容していく。
まるで、この一文に《Le Villi》全体の運命が圧縮されているようです。
まとめ:台詞の「間」が示す、戻らぬ旅
「そして(e)」という一語の欠落が、物語全体の運命を暗示している。
プッチーニは、音楽によってその"綻び"に確かな影を落とす。
祝福の言葉が呪いへと変わる。
それが、《Le Villi》というオペラが私たちに突きつける、静かな恐怖なのです。
#妖精ヴィッリ
#ヴィッリ
「stasera partirà povero, tornerà ricco」