《Le Villi》を語る Vol.9

《Le Villi》を語る Vol.9

― アンナのアリア「Se come voi piccina io fossi」の秘密 ―

マエストロ(私):ついに、アンナのアリア「Se come voi piccina io fossi」が始まりますね。前回までの流れがあったからこそ、彼女の歌が静かに、でも強く響きます。

教授:そうですね。このアリアは決して派手ではありません。むしろ"抑えた抒情"の美しさが核になっています。歌詞に出てくる「fior」=花は、まさに彼女の想いそのもの。

マエストロ:先に引用したこの部分ですね:

Se come voi piccina io fossi,o vaghi fior, sempre sempre vicina potrei stare al mio amor.

つまり、「私が花のように小さければ、いつでも彼のそばにいられるのに...」という切ない仮定法。

教授:そして後半:

Allor dirgli vorrei: "Io penso sempre a te!"Ripeter gli potrei: "Non ti scordar di me!"

ここでようやく、「Non ti scordar di me(私を忘れないで)」という願いが、彼女自身の声として現れます。繰り返される "sempre(いつも)" も強調されていますね。

マエストロ:プッチーニは、この"いつも"という単語に、まさに時間の重さを込めています。テンポはゆったり、強弱の変化も細かく設計されていて、「時間が止まるような静けさ」が全体を包んでいます。

教授:そして花という象徴。これは忘れな草(Non ti scordar di me)でもあり、アンナ自身でもある。自分が小さな存在になってでも、相手の胸に残りたいという願望が、切実な形で語られています。

マエストロ:このアリアは、ドラマの中核である"記憶"と"裏切り"を先取りして提示していますね。

教授:はい。音楽的にも、ここで使われるモチーフが、後に劇的な転調やオーケストラで再現されていきます。つまりこのアリアは、「感情の種子」でもあるのです。

まとめ:花になりたい少女の祈り

アリアは「私を忘れないで」という祈りから始まり、時間、空間、自己のサイズさえも変えようとする強い想いが込められている。その静けさは、プッチーニ特有の"潜在する痛み"として、観客の内側に訴えかける。

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